第8回小松左京賞受賞作品発表

第8回小松左京賞は、下記のように決定しました。

「月が見ている」  上杉 那郎(44歳)新潟市在住 歯科医

2007年10月1日、恵比寿ウェスティンホテルにて、授賞式を行いました。

2008年2月 加筆の上『セカンドムーン』というタイトルで、単行本発行。

【選評】
 今年の最終選考に残った三作品は、いずれもレベルの高いものだった。
 SF的発想はもちろんのこと、エンターテイメントとしての面白さを充分兼ね備えた力作揃いだったと思う。
 毎回同じようなことを問いかけてきたが、本賞の選考基準として私が常に念頭に置いていることは、その作品が読者の存在を前提に、いかに娯楽を提供しながら、同時に深く大きなテーマや問題提起を読者に投げかけているかということである。
 今年度の受賞作は上杉那郎氏の「月が見ている」。文章力とリアリティにおいて、他のに作品に大きく差があった。ロケット打上とそれを阻む謎の宇宙兵器・セカンドムーン。人類の科学力を大きく凌駕するテクノロジーで作られてたセカンドムーンが、人類の宇宙進出を拒むかのように打上ロケットや宇宙ステーションを攻撃するのだが、もっとも私が感心したのは、そのリアリティにある。五年後の2012年を舞台にしているのだが、ロケット打上シーンから衛星軌道に乗るまでの緻密な描写、宇宙空間での攻防のリアルさ、読む者に何の違和感も持たせずに、本当に起こっていることを描いているかのように思わせる力がある。惜しかった点は、セカンドムーンの正体や目的などについてもう一歩深く突っ込んで欲しかったところと、タイトルの付け方。本作品の刊行に際して、この二点は修正を考慮していただきたいと思っている。
 壱石とりの氏の「リキュール」は、ノワールとハードボイルドとSF的要素を盛り込んだ意欲作であった。読者を意識して、楽しませようとしているところは充分評価できる。だが、いろいろなものを詰め込みすぎ、仕掛けも多すぎたのか、消化不足でテーマがぼやけてしまっている。登場人物のネーミングも奇をてらいすぎていた。読者を楽しませる力は充分持っているので、今後に期待したい。
 門田艦攻氏の「一八複兵」は、ユーモアとオリジナリティのある力作だった。人工知能を有した人型軍用兵器と人間の交配によって新たなる種を誕生させるアイデアや会話は楽しめた。最後の新大和人誕生の段になって、スサノオなど国生み神話を持ってきたところは笑えるが、安易なオチでもある。独特の世界観を持っているので再度チャレンジして欲しい。

《第9回小松左京賞の応募規定》は、こちらを参照してください。角川春樹事務所
平成20年(2008)5月23日締め切りです。