平成12年かんなづき(10月)10日

 東京大学理学部の研究室に佐藤勝彦さんを訪ねる。2年前に建ったという新しい研究棟である。東大教授の部屋としては想像していたよりも、かなり狭い。こちらは4人でおじゃましたのだが、ソファに座って、いっぱい。秘書や助手の作業するスペースはない。理論物理学では、おのおのが黙々とコンピュータや机にむかって作業できればよいので、あまりスペースは必要ないのだろうか。「禁煙」なので、灰皿はない。さっそく「宇宙創生」のシナリオ(物語)についてうかがう。物理学者というのは、この世に存在するあらゆる物質に普遍的に成り立つ法則を求めて、合理的に成り立つ仮説を立てる。あとでその仮説にあった観測結果がでると、「ほら、いった通りでしょ」と、小鼻ピクピクの気分らしい。
 対談のあと、おなじ研究棟にいる松井孝典さんの研究室をのぞき、「一杯どう?」とさそう。構内に今年の4月にできたばかりという「松本楼」で、一杯飲みながらあいかわらずあちこちに手を伸ばしている松井さんの研究テーマのことを聞く。キューバに衝突した大隕石「メネシス」の調査は、1kmのK/T境界地層が見つかったことで、さらに急ピッチで進んでいる様子。スカンジナビアの海底で、隕石クレーターが発見されて、火星のクレーターとの比較研究を進めるとか、タイタン調査衛星カッシーニからのデータが来るから、とか、さすが比較惑星学者。2年前に胃を三分の二もとってしまった人とは思えぬ精力ぶり。佐藤勝彦さんとは同世代の学者として、宇宙の歴史、地球の成り立ちについて、一番先端のところで一緒に楽しんでいる、という感じ。ほんとうに、「科学って、エンタテイメントだ!」


(前月へ)